翌檜

何だったのか未だにわからなくて、永遠に確かめもできないことがある。

 

好きな人の家のソファーに沈んで、半身に温もりを感じながらぎこちなく座っていた。テレビでは卓球の試合の録画か何かが流れていた。一度立ったらもう同じ場所に戻れない気がして、ただただポジションを守るように状況を噛み締めていた。

まだ互いについて知らないことも多いような、浅い始まりの頃だった。部活のことや中学時代の話など、誰とでも話す基本的なことを情報交換していた時期だった。少なくとも彼にとって私は、互換性のあるクラスメイトのうちのひとり くらいの認識だと思っていた。

 

身長の話をしていた。

 

150cmはあるんだよ。

じゅうぶん小さいですよ… 死角に入って見えないことあります

なんだと!?

立ってみて

 

彼に背を向けて立った。まず肩に置かれた手に驚いて なになになに!? と思った。声にも出ていたと思う。返事はなくて、小さいですね… などという言葉と共に頭の上に顎の乗る感覚があった。背面が温かかった。私はなんだかわからなくて、ひたすらテンパってラジオ体操で骨折した人の話か何かを反対側の壁に向かって早口で片言でしゃべっていた記憶がある。しばらくの時間のあと、はい、と彼の体と私の体の間に空気の層が割り込んできて、何も無かったように二人でソファーに戻った。

 

もしかしたらあの時彼は私を抱き締めていたのかもしれない と気付いたのは、それから数年後に恋人ができてからだった。