たけのこの里

好きな人が好きだった。どうにもならない恋だった。

そもそも彼を知ったきっかけは、彼が私の友人を恋うていることをその友人から聞いたことだった。その気持ちは少なくとも高校を卒業するまで変わらないようだったので、私は負け戦に励んでいたのだ。しかし仮に彼女の存在がなくても、もっと根本的なところで私たちはどうにもなれなかった。

まず性格が合わなかった。彼が好む友人や先生を、私は決まって苦手とした。話していても、片方にとっては何の興味もない話題を彼の優しさと私の恋心でうんうんって聴いているだけだった。時間やお金の使い方の感覚もずれていた。彼が好きなボウリングやテレビゲームのことが私には全くわからなかった。食べ物の好みから好きなルーズリーフの書き味までぜんぶ違った。そんなふうに最初から破綻しているのに私は彼を追いかけて一緒に居たがり続けるので、好きな人はさらに疲弊して愛想を尽かしていった。

私が彼を好きなだけで関係のある2人だった。どうしてそれでも好きで居続けられたかと言えば、それは私が彼の自分にとって都合の悪い部分を無視していたからに他ならないだろう。
気が合わなくても趣味が合わなくても付き合えないって言われても、聞こえないように脳死のように好きだった。交際に至ることはないから、自分の中で一方的に気持ちを抱えられれば満足だから。気が合わないのに。趣味が合わないのに。付き合えないって言われているのに。
いくら綺麗に保存したい片思いって美化したくてもこれはあんまりだ。自己満足にもほどがある。自分で吐き気さえする。

唯一、好きな人と一緒だったことがあって、それはきのこたけのこ戦争におけるたけのこの里派だったことだ。ずっと見ていたのに、そんな人類の大半がそうであろうことでしか、とうとう共通点を見つけることができなかった。