ターミナル

きっと遠くない先、天命に背いて今生を出ていくあなたに、何もできないままでいる。

私の存在が、あなたに良い影響をもたらすことはこれまでもこれからも無いし、できるだけ活動の痕跡を消して行こうとしていることに逆らって、残存の文章や音声を手元に保存しているのも、あなたの望むことではない。

 

いつも、薄く引き延ばした死と絶望のヴェールを纏ったような表情をしていた。それこそがあなたをどうしようもなく美しく見せていることには、最初から気付いていたのだと思う。

あなたはずっと死に惹かれていて、それこそがあなたの特性で、そして魅力であるのが大前提だったとしても、実際にあなたを失うということがどういうことか、私はまるでわかっていなかった。

見た目以上にしっかり高い体温も、しなやかな身体も失われて、乾いた細かい骨だけが小さい容器に収まって、きっと一通りの旅立ちに私は立ち会えない。

あなたがコンプレックスにしている下の名前から取られるであろう戒名に、苦笑いする本人はもうその時にはいないこと、

でも長年の本懐を遂げた人に送るべき言葉は、おめでとう、お疲れさまでした、しかないんだろう。

 

あと何回か会えたら神様の座から引きずりおろしてただの凡人にできる、と思っていたのは大きな間違いで、あなたはただの愛しい現世の存在になった。

これが最後かもしれない、もう会えなくてもいい、とは毎回思うものの、それは本当はあなたがどこかで生きている、奇跡みたいに会える可能性が残されている、という前提の上でだった。

一筋の望みもなく、完全に未来が絶たれることを思うと、縋る先を失って立ち上がれなくなる。

心のどこかでわかっていても、いつか青天の霹靂のように報せを聞いた途端、おそらく私は足場を失ったカートゥーンアニメーションのように崖の下に落ちる。

ここにもきっと何も書けなくなる。

今のうちに、あなたがいる間に、なるべくたくさん考えて自分の言葉を残すことが、望まれているはずもないが、私にはこれしかできない。

 

死んでもいい?

いいよ。

腕の中の私が本当は よくないよくないよくない!! 行かないで!!!! って叫びだしそうなのも、それでもあなたの意志を尊重していつか黙って泣くことも、きっとあなたはわかっていたのだと思う。