無法

何度もスマートフォンを布団に投げつけてあ゙〜〜〜〜!!!! と叫ぶような紆余曲折を経て、去年、固有名詞とカラオケに居合わせる機会があった。

固有名詞はカラオケはおろか、校内の合唱コンクールの場でさえ歌うことをいやがるような人だったので、そして私も彼の趣味界隈の集まりに干渉することはありえないと思っていたため、これは私の天地を揺るがす出来事だった。

 

一曲だけ、デュエット曲でもなんでもない曲のハモりに私が入る形で、固有名詞と一緒に歌った。

私のことなんて何も気にせず、モニターだけをまっすぐに見つめて歌う固有名詞と、もう歌詞も音も頭に入っているので固有名詞だけを見て合わせに行く私と、傍から見ればおかしな絵面だっただろう。

オフ会主催の男子学生が、あろうことか私たちを知り合いと知らずにそれぞれ個別に声をかけてくれたわけだが、彼はしきりに「すげー!! 息ぴったりですね!!」と感心していた。

私は、固有名詞がその歌をカラオケで歌ったことがあるという情報を得て、万に一つの可能性のために念入りに準備して行ったので、さもありなん、である。

 

今はもうその趣味界隈に固有名詞は居らず、その時の音源だけが手元に残っているが、まあ調和とはほど遠いがちゃがちゃの二重奏だ。

それでも、私が必死で追走しているだけで成り立っているこの構図が、私たちの象徴だ。