好きな人の夢を見ることがある。

 

好きな人の夢に好きな人は出てこない。大きい流れ星が消えないうちに好きな人の名前を10回言えたとか、友人からの一斉送信のメールの宛先に私とあの人が一緒にいて許されたような気持ちになるとか、用もないけど3年3組の前の廊下を通ろうとするとか、そんな程度のことだ。

 

私にとって重要なのは、好きな人そのものよりも私が彼を好きでいること、のようである。

心の中で何年も練り上げたあの人への想いが、私側の輪郭が、私にとっての 好きな人 なのである。この祈りにはもはや本人さえ不要なのだ。

人の時間で考えたらほんのちょっとのすれ違いの薄片を抱えて、本人の意思や知覚の及ばない雪坂を転げ落ちている。