宝箱

好きな人との思い出を箱いっぱいに持っている。私の部屋にはダイヤル式のロッカーがあって、その最奥にガムテープで巻かれて、お菓子の箱が眠っている。

好きな人との思い出の品、と言ったら普通はプレゼントや揃いのアクセサリーなんかがそうなのだろうか。
そういったものがあったら思い出の依り代にできたのだろう。

何の形も名前も贈り物もない関係だった。箱の中身は前後の席だった時に配られたお便りとか、立て替えで彼のお財布から出てきたおつりの10円玉とか、一度貸して返ってきたペンとか、そんなものばっかりだ。
好きな人との思い出の品、と呼ぶことさえおこがましいような品々。神経質な字で計算式が書かれた裏紙や、一緒に行ったコンビニのレシート。しかしこれが当時のわたしが全力をあげて欲しがったものなのだ。こんなものでも捨ててしまったら結構な期間が空白になってしまうのだ。このように必死に好きな人の欠片を求めたことだけが、日記もろくにつけていなかった私の当時を示す痕跡なのだ。


幼い頃にビールの王冠や綺麗な形の石を宝箱に詰めた、その行為と何ら変わりはない。こんなものだけが、私が活動した証明なのだ。