永久欠番

現実世界において、私と好きな人のエピソードがこれ以上増えることはない。ここに書けるのは昔あったことと、私の心象と、それだけだ。ただの反省部屋なのだ。

 

好きな人(固有名詞)を好きな人と呼んでしまう。どうにもならないってわかり続けていても。ほかに大切な人がいても。

そもそもあの人のこと好きじゃないでしょ、と思うことがある。私は彼の幸せを祈れない。彼は生きている限り私を幸せにしない。一緒にいてもただただ気が合わなくてどちらが悪いわけでもなく磨り減っていくだけだし、私の知らないところでほかの誰かと生きていることを思ってもへたりこんでしまう。これは愛ではない。執着とか、呪いとか、そういう類いの負の感情だ。彼抜きで楽しんでいる自分の脳裏に現れて闇に引き戻す鎖だ。

 

それでも好きなのだ。こんなに誰かのことを考えて考えてやめられない気持ちを 好き と呼ばずに処理できる枠が他にない。

彼のことを考えては生活も勉強も手につかなくなった、途方もなく重い感情から、自分が誰かに振り切れる極値を見た。これが恋なんだなと思った。お酒を飲む人は一度自分の限界を知っておいた方がいい、みたいに、誰かのことでこんなにしんどくなれるんだ という限界を知った。

ほかの人を ちょっといいな、好きかも、と思っても、彼に抱いた強い感情の足元にも及ばないのだ。

 

これが本当は 好き でないのなら、彼が 好きな人 でないのなら、私は一生好きの意味を間違えたままでいい。これが私の恋だ。嫌い とか 殺意 とかの方がほんとは近いのかもしれない。それでも。

 

私には好きな人がいます。しかし私の手には入らない方なので、どうにもならないままで、まだ忘れられないんです。

いちばん楽しくて簡単で自分のペースでできる地獄のテンプレートにぴったり当てはまってくれる点まで含めて、彼は理想の人だった。

 

私を幸せにしてくれる人々といても、大切な存在ができても、他の人が彼のポジションに取って代わることはないだろう。好きな人 の枠にはでかい穴が空いていて、覗いても誰もいなくて、永久欠番の神域になっている。