生傷

あなたのことも、たまには思い出していたんですよ。


ん……? と思った。

 

大学の近くにあなたの名字と同じ地名があって、そこの体育館をサークル活動で使うことがあったんです。その時くらい。


こちとらまだ生傷だぞ……!!

好きな人は片時も私の思い出なんかになったことはなかった。たまに思い出して取り出して眺めるようなものではなく、常に心に生活に干渉してくる進行形の日常だった。

高校を卒業したことにも気付かずに何年も立ち止まったままの私を置いて、世界は進んでいたようだった。

 

好きな人の携帯電話がガラパゴス携帯からiPhoneに変わっていた。高校在学中は一緒にスマホ化の波に抗ってパカパカし続けていたのに。聞けばiPhoneに変えてもう3年以上経つという。3年……? 時が止まったままの私だけがあの頃のお揃いの記憶を抱いてパカパカしていたのだった。

 

3日間側で過ごして初めて、私の知らないn年-3日の時間が彼にあったことを実感した。人は変わっていく。出来事を思い出にして歩んでいく。


私は好きな人の身長を176cmだと認識していたので、176cmくらいの人を見ると 好きな人と同じくらいだな、と直感的にわかる言わば絶対176cm感のようなものを備えていた。 数年ぶりの彼の身長はすこし伸びて、もう176cmではなくなっていた。

 

思い出にもできずに生傷のまま心の穴をそのままの形に残して、輪郭の形から彼の形を感じて愛おしんできた。しかし最早、その穴をぴったりと埋めることは、数年後の本人をもってしても不可能なのだった。